「週1アンコンファタブル」のすすめ:心地よい不快感がチームを強くする理由

想像してみてください。
あなたのチームが、毎週一度だけ「いつもとは違う、不慣れな状況」に飛び込む時間を設ける。
議論がヒートアップしてもいい、立場や価値観がぶつかり合ってもいい。
ただし、一人ひとりが心理的安全性を感じながらも“心地よい不快感”を味わう――。
そんな場を定期的に作ることで、チーム全体の学習速度やエンゲージメント、さらにはイノベーションの種が一気に増えるとしたら、ちょっとワクワクしませんか?

私たちカルチャーシフト社では、この定期的な“不快感”を活用する試みを「週1アンコンファタブル」と呼んでいます。
そもそものきっかけは、私自身がスタンフォードのd.school(デザイン思考プログラム)で受けたセッションでした。
最初はお互いに遠慮があったメンバーが、あえて不慣れなアイデア出しやロールプレイを強いられるうちに、次第に心がほぐれ、むしろメンバー間の絆が深まる瞬間を目撃したんです。
それを自社に導入してみたところ、チームのコミュニケーションが加速度的に活性化し、組織内の小さなイノベーションが連鎖的に生まれはじめました。

この記事では、「心地よい不快感」がなぜ組織変革の大きな原動力になり得るのか、そして週1アンコンファタブルを実践するための具体的な方法について解説します。
きっと、新しいチームビルディングの視点を手に入れていただけるはずです。

心地よい不快感がもたらす組織変革の可能性

「形式的な和」から「創造的な摩擦」へのパラダイムシフト

日本企業では、とかく「場の空気を乱さない」ことが重視されがちです。
もちろん、和を尊重する精神は大切ですが、一方でそれがあまりに形式的な調和に終始すると、チーム内の建設的な議論や挑戦が生まれにくくなります。
それどころか、表面的な“いい人間関係”があるように見えても、実は背後に不満やアイデアが埋もれたままになることもしばしばです。

この問題意識から私が注目したのが「創造的な摩擦」です。
摩擦と聞くとネガティブな印象を抱くかもしれませんが、組織が革新的な成果を出すためには、多様な意見や価値観がぶつかり合うことで生まれる“化学反応”が必要不可欠です。
こうした摩擦は、形式的な和よりもはるかにエネルギーを伴います。
しかし、それをチームで適切に活かすと、新たな発想や深い共感が生まれる可能性が一気に高まります。

心理的安全性と建設的な対立:相反する概念の共存戦略

「心理的安全性」と「建設的な対立」は、一見相反するように見えます。
実際、多くの組織では「心理的安全性」を高めようとして衝突を避け、逆に「対立」を重視するとメンバーが萎縮してしまうケースがあります。
しかし、両者は上手に共存できるものです。

ポイントは、メンバー全員が「ここでは遠慮なく意見を言っていいんだ」「自分らしく振る舞っても受け止めてもらえるんだ」という安心感を持ちながら、あえて“意図的な衝突”を起こせる場を設計することにあります。
この設計こそが「週1アンコンファタブル」の核です。
あらかじめルールやゴールを共有したうえで、意図的に不快感を引き起こすワークを取り入れることで、心理的安全性を保ちつつ前向きな衝突を生み出せるのです。

Z世代・ミレニアル世代が求める「本音のコミュニケーション」

さらに、この「週1アンコンファタブル」の考え方は、Z世代やミレニアル世代が求める本音のコミュニケーションと相性がいいと感じています。
彼らは上から与えられる指示や形だけの合意ではなく、実際に自分の声やアイデアがチームに影響を与えることを重視します。
「ここでは何を言ってもいいし、実際に話を聞いてくれる」という空気感こそが、若手人材の離職防止やエンゲージメント向上にも直結します。

「週1アンコンファタブル」の実践メソッド

ステップ1:アンコンファタブルの土台となる心理的安全性の構築法

週1アンコンファタブルを導入する前に、最初に取り組むべきは心理的安全性を高めるベースづくりです。
以下のポイントを意識してみてください。

  • 共有ルールの明確化
    発言の頻度や発言内容に優劣をつけない。
    「責めない・否定しない」姿勢を全員で確認する。
  • 個人の自己開示
    例えば、アイスブレイクの時間を設けて、最近失敗したエピソードを気軽にシェアしてみる。
    リーダー自身がまず“小さな失敗”をオープンにすることで、周囲も心を開きやすくなる。
  • 「ありがとう」カルチャー
    建設的な対立をしても、最後には感謝やポジティブフィードバックを伝える。
    “衝突しても仲間同士”という意識が高まり、思い切った発言がしやすくなる。

ステップ2:週1で取り入れるべき5つの「心地よい不快感」ワーク

心理的安全性の土台ができたら、いよいよ不快感を取り入れる段階です。
週に一度、30分から1時間ほどの時間を確保し、下記のようなワークを実行してみましょう。

  1. ロールリバーサル・ディスカッション
    あえて役職を逆転させて意見を交わす。
    普段の立場では見えない視点を得られます。
  2. デビルズ・アドボケイト(Devil’s Advocate)
    あえて逆張りの立場をとるメンバーを決め、議論を混ぜっ返す役割を与える。
    これにより、アイデアの盲点が浮き彫りになります。
  3. ブレインライティング
    全員が一斉に紙や共有ドキュメントにアイデアを書き込むワーク。
    発言が苦手な人も参加しやすくなると同時に、質より量で異なる発想に触れる機会が増えます。
  4. ペア・フィードバック
    2人1組になってお互いのプロジェクトや強み・弱みを率直に指摘し合う。
    少人数だからこそ、本音ベースで話しやすい。
  5. 即興ワークショップ(Improv Workshop)
    簡単な即興演劇の手法を利用し、瞬時の思考転換や協力プレイを学ぶ。
    思わぬところでお互いの思考パターンや柔軟性が見えてくる。

ステップ3:ファシリテーターの役割と対話を深めるテクニック

これらのワークを実践する際、ファシリテーターの役割は非常に重要です。
衝突のエネルギーがどんどん高まるときこそ、「今の意見をもう少し掘り下げてみましょう」と場を整えたり、「ちょっと立ち止まって整理しましょうか」と休憩を提案したり、適切な“ハンドリング”が求められます。

  • オープン・クエスチョンを活用する
    「どう思う?」「何が懸念点?」「他にアイデアある?」など、相手が考えを深めやすい質問を投げかける。
  • 対話のスパイラルアップ
    一度出た意見をさらに別の角度から問い直し、より深みのある結論へ導く。
    「今の意見が実現したら、チームにどんなメリットがありそう?」と発展させると効果的です。
  • タイムマネジメント
    アンコンファタブルな議論は盛り上がりやすい反面、収集がつかなくなるリスクもあります。
    事前に「このワークは30分で終わらせる」など、時間を明確に設定することをおすすめします。

先進企業に学ぶアンコンファタブル導入事例

スタートアップケース:成長速度が1.5倍になったチームの対話術

あるテクノロジースタートアップでは、イノベーションの速さが生命線。
そこで週1アンコンファタブルを導入した結果、チーム全体の新規アイデア数と実行速度が1.5倍近く伸びたそうです。
特に効果的だったのは「デビルズ・アドボケイト」をチーム内で持ち回り制にしたこと。
「無条件に反対する人」が常に存在することで、意図せず盲点に陥るリスクを減らせただけでなく、社内の空気がポジティブな意味でピリッと引き締まったとのこと。

大企業ケース:伝統的日本企業が「週1アンコンファタブル」で変わった瞬間

一方、大企業の事例では初めは現場から「そんなことをしたら上下関係が崩れる」「社風に合わない」という声もあったそうです。
しかし、少人数のプロジェクトチームで試験的に実施してみたところ、「思っていた以上に意見が出る」「若手から新しい知見がもたらされた」という好意的な反応が続出。
これを受けて経営陣が全社導入を検討しはじめ、最終的には「組織風土をアップデートする機会」として認識されるようになったそうです。

デザイン思考を取り入れた「アンコンファタブル・ミーティング」のフレームワーク

私自身が取り入れているのが、デザイン思考のプロセス(共感→問題定義→アイデア発散→プロトタイプ→テスト)をアンコンファタブルなミーティングの場で実践するアプローチです。
特に「プロトタイプ」の段階では、あえてアイデアを“荒削りなまま”ぶつけ合うことで、チーム全員が積極的にフィードバックを出しやすくなります。
このときの不快感がチームの結束を強めるスパイスになり、より実践的なアイデアが洗練されていきます。

アンコンファタブルを成功させるマインドセットと共通の落とし穴

リーダーが率先して「弱さ」を見せることの重要性

心地よい不快感を生み出すために最も大切なのは、リーダーの姿勢です。
リーダーが完璧でいようとすると、周囲が萎縮し、せっかくのアンコンファタブルの場が「やらされ感」に変わってしまう危険があります。
逆にリーダーが自分の失敗や苦手分野を率直に打ち明けることで、メンバーも「ここでなら本音を言える」と安心し、チャレンジする勇気を持ちやすくなるのです。

特に、「リーダーに向いていないかも……」と感じている方には、誰にでも実践できるリーダーシップのノウハウが詰まった「決定版 強いチームをつくる! リーダーの心得」などを参考にしてみるのもおすすめです。
この書籍では、リーダーにカリスマ性が必須というわけではなく、等身大の自分だからこそ活かせるコツが解説されており、まさにアンコンファタブルな挑戦にも活かせる内容が満載です。

アンコンファタブルとダイバーシティの相乗効果を生み出す場づくり

アンコンファタブルな状態は、ダイバーシティ&インクルージョンの観点からも大いに活用できます。
多様なバックグラウンドや専門性を持つメンバーが、不快感を恐れずに意見をぶつけ合うことで、新しい結合が生まれやすくなります。
特にZ世代やミレニアル世代は、アイデンティティや価値観が多岐にわたる傾向がありますから、こうした多様性を活かした議論の場づくりは組織全体の成長にも直結します。

失敗から学んだ教訓:アンコンファタブルがチームを分断させてしまう3つのケース

とはいえ、アンコンファタブルの導入がうまくいかず、かえってチームが分断されてしまうケースもあります。
私が過去に見てきた、よくある3つの失敗事例を挙げておきます。

  1. 心理的安全性の欠如
    まだ信頼関係が構築されていない状態で衝突だけを増やすと、ただのケンカや批判合戦に陥る。
  2. リーダーシップの混乱
    リーダーが不在、またはリーダー自身がアンコンファタブルに後ろ向きだと、場がまとまらない。
    結果、メンバーが不快感を持ったまま終わってしまう。
  3. 目的やゴールの不明確さ
    なぜアンコンファタブルな場が必要なのか、目的を明確にしないまま実施すると、ただの時間のムダと思われる。
    事前の意図共有が欠かせない。

まとめ

週1アンコンファタブルは、チームの化学反応を意図的に促すための強力なツールです。
最初は抵抗を感じる人がいるかもしれませんが、心理的安全性を大切にしながら「心地よい不快感」を取り入れていくと、チーム全体が驚くほど活性化し、メンバー同士の関係性も深まっていきます。

明日から始められる小さな一歩として、まずは30分程度の短いワークでいいので、「普段と違うことを試す」「普段は言わない意見をあえて口に出す」場をつくってみてください。
あなたのチームならではのユニークなワークを考えてもいいですし、今回紹介した5つのワークをそのまま取り入れてもOKです。
要は「安全な環境で、ちょっとだけ不快な状態を楽しむ」ことが重要です。

私たちの未来の働き方は、ますます多様性とスピードが求められます。
その中で、この“心地よい不快感”は、組織やチームが一段と強くなるカギのひとつだと信じています。
ぜひ「週1アンコンファタブル」を通じて、あなたのチームにも新しい風を吹き込んでみませんか?

最終更新日 2025年4月29日